赤ちゃん誕生の瞬間の胎児から新生児の体内切り替え作業、前回Vol.10の呼吸に続いて、循環についてご紹介します。
循環と言うと私達は「心臓から血が全身に行き渡り、そして心臓に戻り、その血が肺へ行き、又心臓に帰ってくる。」」そして「心臓から出て行く血は酸素や栄養分の多い動脈血で全身をめぐり、栄養分が少なくなり酸素が炭酸ガスになり、静脈血として心臓に戻って、今度は肺へ行き酸素を取り込み炭酸ガスを捨て動脈血になり心臓に戻る。そしてまた全身をめぐる」この繰り返しが循環です。
心臓は外から見ると一つのようですが、血の流れは、左心房、左心室、全身、右心房、右心室、肺、左心房、左心室、全身とめぐります。肺は、全身血行に対して図2aのように直列に配置されているので、心臓の中で、動脈血と静脈血が混ざり合うことはありません。理科の授業を思い出しますね。
胎児循環
胎児循環は、子宮の外にでて肺呼吸が始まると大人と同じような成人循環になります。では、胎児の血行はどのようになっているのでしょうか?
新生児 (山内逸郎著)からご紹介します。
まず肺が機能していないので、成人循環とは全く違います。胎児のガス交換器は胎盤が行っています。そして、胎盤は、全身血行に対して図2bのように並列に配置されています。その結果、せっかく動脈血にしたのに静脈血と混ざってしまいます。酸素化という点から考えますと大きなマイナスですが、この並列配置はいたしかたないのです。なぜかと言うと、生まれたら胎盤はすぐ不要になり、不要になった時上手に切り捨てるためには、並列配置の方が都合良いのです。
胎児の肺はガス交換の機能を全くしていないばかりでなく、血流に対して大きな抵抗になっています。この抵抗を除くために、二つのバイパスが付いています。
これが動脈管(ボタロー氏管)と乱円孔です。右心室から出て、肺動脈を通り胎児の肺は広がっていないのでバイパスを使って直接大動脈にながれます。このバイパスが動脈管に他ならないのです。 また一方の下大静脈を経て心臓に入ってくる血液は、右心房に入らないように直接左心房に導くものが卵円孔と呼ばれるもう一つのバイパスです。
胎児の血行の主流をなすものは、右心から胎盤に帰る流れで、胎児循環では、右心が中心になって働いています。右心室の血圧は左心室のより高く、血液は動脈管を右から左に流れます。
胸部及び腹部大動脈には、左心室から送り出された血液が流れ下ります。この血液の一部が下半身の腹部臓器や筋肉、皮膚へ行き、残りが胎盤へ行きます。こうして、左右心室の拍出量の約半分が、腹部大動脈から分かれた左右の腸骨動脈の枝である二本の臍動脈を通り胎盤へ到達します。
胎盤から帰って来る血液は、一本の臍静脈となって臍帯を通り、胎児の臍から体内に入ります。そこで下半身から帰って来る血液と一緒になり下大静脈の中を通って心臓に帰って来きます。このうちの一部と上半身から右心に戻る血液と、心臓の冠静脈の三つが合わさり右心室に戻ります。これが胎児循環の主流です。
さて、下大静脈を通って心臓に帰ってくる血は右心房に入る血と卵円孔を通り左心房へ入っていく、二手に分かれますが、この二手に分けるための分流器のような(特別な解剖学的)仕掛けがあります。下大静脈から血液を直接左心房に向かい入れるための卵円孔は、胎児の脳と心筋に少しでも多くの酸素と栄養分を与えたいために、下大静脈から直接左心房に入れる位置にあります。そのため、卵円孔は、解剖して見るとちょっと目には右心房と左心房の間に位置しているように見えますが、機能的には下大静脈と左心房の間の孔で、右心房と左心房との間に開いているのではありません。
発達途上の酸素要求量の大きい脳に、少しでも酸素の豊かな、栄養分に富んだ血液を脳に送るためには、血液の取り入れ口は、下大静脈が心臓に入るところになくてはならない。そのために、卵円孔はあの位置、すなわち下大静脈と左心房の間に位置するようになったのではないだろうか。
新生児循環
生まれても最初に息を吸うまでは、数秒から数十秒かかります。出てきてもすぐ息をするわけではありません。しかしひとたび息を大きく吸うと、全ては急激に変わり始めます。空気が肺に入ると、まず血の流れが急に変わります。呼吸が始まると、急に肺の抵抗が下がり、肺の血管の中をもっと多くの血液が流れるようになります。抵抗が下がるから肺動脈の血圧もぐんと下ります。肺動脈の血圧が下がって大動脈の血圧より低くなると、今度ほバイパス血の流れの方向が図2ckのように逆変わり、大動脈から動脈管を通って、血圧の下がった肺動脈の方へ血が流れ込むようになります。そうすると肺動脈を流れる血液量はいっそう増してきます。それは呼吸を始めたばかりの赤ちゃんにとっては都合が良いことになります。
こうして数回呼吸する頃には、肺を通る血の量が急に増えて、肺から左心房に帰ってくる血の量が増加し、左心房内圧が上昇します。そうすると卵円孔の弁を押し返すようになり、それまで下大静脈からその卵円孔を通り、左心房に帰ってきていた血液の流れは、今度は右心房・右心室・肺動脈という血の流れになり、成人の血の流れと同じ道筋に変わってきます。
胎盤との血の流れは絶たれて、動脈管の中を流れるバイパスの方向が胎児循環の逆で、卵円孔が閉鎖しているような循環状態を新生児循環と言います。やがて呼吸が上手に出来るようになると、血液中の酸素が急速に増加し、酸素に鋭敏な動脈管が収縮して閉鎖します。こうなると成人と全く同じ血の巡り、成人循環になります。胎児型から成人型への移行は普通一、二週間かかります。この期間が新生児循環なのです。
呼吸を繰り返していると、臍動脈の拍動は弱くなり、臍帯の太さも目に見えて細くなってきます。これは臍動脈が自分で収縮するからで血流を自ら遮断しはじめます。その頃になると、産科医が臍帯を糸で締めくくって、ハサミで切ってくれます。ここで驚くことは、臍帯をもし、くくらずに切っても、この時点では出血して困ることはありません。
赤ちゃんが生まれ出る瞬間の、呼吸・循環だけでも、こんなにも複雑で巧みな機能を持って生きようとする命は、単に進化だけで授かったものでしょうか?
赤ちゃんの生きようとする命と、私たち指導者は向き合っているのです。赤ちゃんのバイタリティーに感慨を持って、真摯にベビースイミングと取り組んでいきたいと思います。
この「新生児」本には呼吸・循環だけでなく、沢山の生きようとする命の事が紹介されています。
私たちも一生懸命、生きようとして産まれ出た命です。命あることに感謝して人生を送っていきたいと思いました。