今回はベビースイミングの目的効果から少し離れて、赤ちゃん誕生の瞬間の胎児から新生児の体内切り替え作業、呼吸・循環の神秘的な変化をご紹介します。
子宮外で生きるための呼吸について!!
ベビースイミング指導者としての勉強を始め、はや48年が過ぎ今年で80歳になります。
その間、色々な分野の著名な先生の講演会・研修会に参加しました。自分が知りたいと追い求めると、自分の心に染み渡る本と、素晴らしい講演会・勉強会に必ず出会えました。時間がない、足らないと思える時にこそ出会えるのです。当時の嬉しかったこと、感動した事が蘇ります。
その一つに何十年か前、なぜか出生から2週間の「新生児」について興味を持ち「新生児」岩波新書 山内逸郎著を読み胎児の自立への適応に感動しました。
そこで、誕生の瞬間、産声までの複雑で神業としか思われない、 子宮内から子宮外への切り替え作業を見事にやり遂げる「新生児」を皆さんにお伝えしたいと思いました。
胎児が子宮と離れ、生きていくために、ちょうど良いタイミングで呼吸をしなければなりません。生まれてすぐ息が出来るように、いろいろ旨い仕掛けが仕組まれています。狭い産道を通る事により、胎児は強くしぼられ、これまで気道にも肺にもいっぱい詰まっていた羊水が絞り出されます。絞り込まれていた胸郭が、生まれ出た瞬間に、体が元に戻ろうとする時に空気が入り込みます。赤ちゃんがまだ吸気運動を開始しないうちに、空気のほうが入り込みます。
この自然な仕組みをより有効にするために、胎児はその日に備えて、何ヶ月も前から呼吸練習を積んでいます。これを胎児の子宮内呼吸様運動と言います。ここでは羊水が少しだけ出入りして、空気で呼吸できる様に練習しています。
最初の吸気運動によって空気が気管の中に吸い込まれ、気管支その先の細気管支さらに奥のガス交換する3000万個の肺胞まで空気を吸い込まなければならないのです。吸い込む力は、横隔膜と呼吸筋群の収縮で胸郭の拡張による陰圧によって行います。
ところがこの小さな3000万個の肺胞には表面張力がかなり強い力となっているので、肺胞を膨張させるためには大きな圧力が必要になりますが赤ちゃんにはそんな大きな力を出せるわけはありません。
ところが、巧妙に用意されている表面張力低下性物質(サーファクタント)が肺胞の表面に分泌されているのです。このサーファクタントは肺胞が縮むのを防いでくれるので空気は肺の隅々まで行き渡ります。
最後のいきみで、しぼり出されるように全身が出てきます。一瞬、虚空を掴むように胸をいっぱい広げてもがき、顔をしかめてしゃくりあげながら、息を大きく吸い込み、それを吐き出す。その時高い産声が上がり、呼吸が開始されます。
この時、サーファクタントにより空気が満遍なく肺胞に入り込み、血液が流れガス交換が行われ、呼吸が開始されます。
このサーファクタントは肺だけではなく、角膜の表面の涙の薄膜が均一な厚さとなる様に瞼の縁からも分泌されています。
産声を上げるまでは、失敗しても自動的に回避するための、緊急安全機構が何段にも用意され生き続けられる様になっています。
胎児は胎盤から離れ子宮内のすべての機能を捨て子宮外生活をはじめるその適応能力を知れば知るほど、この世に誕生した赤ちゃんの生きようとする命を、命の尊厳を見つめ直す機会を得ました。
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詳しく知りたい方へ
「新生児」 岩波新書 山内逸郎著 1986年発行